奥山陽一のコラム

2010/12/13

KATAMONO

 

今年はお陰さまで例年より成人さんの前撮りが多いような気がする。

 

多分そんな気がするだけなのだけど・・・・



 

昨年の成人さんの撮影から写真集をお勧めしているのだけど、

夏休み時期から始まった前撮りも、殆どのお客様が写真集を注文して下さる。

 

前撮り割引で一冊5万円から という設定なのだけど、内容は15万円以上の値はあると思っている。

 

御着物だけでも相当数の撮影をし、更には後日私服でモデル体験をしてもらう。

沢山のライトに囲まれながら連続してシャッターの音を聞かされ、更には話術で気分を乗せられると、

撮られている本人はもちろん、付き添いで来られている周りの人達までもがその独特な雰囲気に入り込んでしまい、普段の生活には無い良い気分になってしまうと言ってくださる方が多い。

 

まあこれも私の持つ独特なオーラのお陰なのだけど・・・・爆

 

でも、冗談抜きにどれだけお客様をその気にさせながら良い表情を引き出せるかはカメラマンの話術や空気の作り方に全てが掛かっているのだ。

 

初めてお会いするお客様が殆ど。

 

その初めて来られるお客様をどれだけ自分に引きつける事が出来るかどうかが勝負であり、

どれだけ信用して任せていただけるかが非常に大切だと考えている。

 

その為にはこちらがどれだけ和装に関しての知識を持っているかというのも非常に大事であり、

更にはどんなお客様とも話題を合わせて会話が出来るような知識も必要だと思っている。

 

マニュアル通りにお客様を撮影している写真館は、そんな事を考える事も無くただ黙々と撮影しているけど、私は出来上がった写真だけがお客様の思い出に残るとは思わない。

撮影をしている時の雰囲気や、私自身がお客様の記憶に残ってはじめて思い出と成るものではないだろうか?

 

いつの日かもう一度アルバムを開いた瞬間に、今の記憶を蘇らせる事が記念写真を撮る意味でもあり、スタジオ夢物語の奥山に写してもらったという記憶が薄っすらでもお客様の中に残っていてくれる事が写真家としての喜びの瞬間かもしれない。

私の名前までは知らないお客様が殆どだろうけど、名前を思い出してもらうところまでいかなくても、その時の私の姿や、スタジオの雰囲気だけでも思い出して頂く事が出来たらどんなに嬉しい事だろうか・・・

 

私は常々そんな思いでお客様と向き合っているつもりです。

 

そして近年、型物が出来ないカメラマンや美容師が増え続け、きちっとした知識が無いまま、ただ何となく形だけを真似て撮影をしているスタジオが殆どになってきた。

 

こういう写真屋が増え続け、何をやらかすかと言えば、いっぱい撮影をしてデザインでごまかすだけの写真集を作って販売するという方向に、日本中の写真屋が成りつつあるのです。

 

美容師もきちんとした着付けが出来る先生がいなくなってきて、若い美容師にとっても、ごまかしの利く写真集が有り難い存在に成りつつあるのが現状だ。

 

出来ない美容師が出来ないカメラマンと手を組む。

 

悪循環の何物でもない。

 

士別でも、お嫁さんのお支度や成人の和装のお支度をきちんと出来る先生が少なくなってしまった。

 

お客様のポーズを着けさせて頂くと、着付けの良し悪しがハッキリと解るものだ。

 

酷いものだと着物の合わせを逆に着せて来た旭川の美容師がいたのにはビックリした事がある。

合わせが逆、左前というのは亡くなった人に対しての着付けなのだ。

確かに誰にでも間違いはある。

しかし、その美容師は謝るどころか私に対して、あんたが余計な事を言わなきゃ解らなかったんだから支度代を払えと言って来たのだ。

 

いやいやビックリだ。

でも私を相手にそういう因縁を着けるのは、相手が悪かったかもしれない。

丁重にお話をさせて頂き、お客様に対してもきちんとお詫びをして頂きました。

 

まあそんな中、和装だけではなくきちんとした型物がどれだけ大切なものかを今の業界に投げ掛けてているのだけど、危機感を持って取り組もうとしている写真館は少ないのが現状である。

 

型物はシンプルで有るが故に難しいものなのです。

難しいから逃げてしまうカメラマンが殆どなのかもしれません。

私達の永遠のテーマかもしれない。

 

私はこの数年、この型物に対してピリピリするくらい真剣に悩み、取り組んでいる。

若い人達からすれば考えが古いと言われて片付けられてしまうかもしれないが、表現に古いも新しいも無いのだ。

おまけに私の表現の世界ではその型物の世界からアレンジしながら現代のニーズに合った色合いを作り出しているのだから、逆に言えば型物を大切にしているからこそ周りのカメラマンより一歩上を歩いてこれたのだと自負している。

 

それは今年の成人の前撮りにも現れているのかもしれない。

 

田舎ゆえに美容室が一軒の写真館をご紹介するのではなく、お客様に選択させるという形の美容室が殆どだという事を今年になって初めて聞いた。

 

いつも紹介してくださっているとばかり思っていた美容室の先生がお嫁さんのお支度にみえた時に、

「今年の夢さんは凄いね、殆ど夢さんで写したいっていう人ばかりだよ」 というのだ。

私は今年の成人はこの美容室がダントツに多いなんだなあとばかり思っていた。

そこではじめて数件の写真館の見本を見せて、お客様に選択させていると知ったのだ。

 

お客様が選んで下さる理由の一つに、他と見比べると和装が綺麗と言うのと、色が綺麗に見えるという事らしいのだ。

 

他と同じ写真集でも、先に書いたように、一つ一つのポーズに対してきとんと型物の大切な部分を意識して撮影させて頂き、デザイン重視で内容の無い写真館の写真集とは一線を引こうと考え、

写真集に載せる写真の一枚一枚の色出しまでの作業の全てを私の手で仕上げている。

組み合わせやデザインは若い子の方が今のニーズに応えられるという事から店長に任せているが、

製本時には再度私が最終確認をし、OKを出すまで何度もやり直す事もある。

 

写真集はカット数も多いので、仕上げが大変だ。

綺麗な色を作るのも撮影時のライティングに全てがかかっている。

この頃は、また新しいライティングを始めてみたのだけど、殆どストレートにプリント出来るくらいまでに

なってきたが、非常に高度なテクニックが必要とされるので今のところ私にしかそのライティングは出来ないので、一段と撮影時の集中力が必要になり、自分を追い込んでいるのだけど、それがまた楽しいのである。

 

写真集であっても、一枚一枚をバラして台紙に入れてもちゃんと勝負できる撮影をしようと心掛けている。

本来なら一冊15万円以上頂きたいという気持も解って頂けるだろうか・・・・

 

でも私は、この写真集を通してもっと写真を身近なものに感じて欲しいし、お客様自身にも自分が知らない魅力が沢山あるのだという事を楽しみながら知ってもらいたいと思っている。

だから少しでも低い値段設定をさせてもらっているのです。

 

 

また先日、婚礼のお写真を撮らせていただいたお客様が美容室の従業員さんで、そこの美容室とは私が開業してから15年間、殆どお付き合いも無く、お客様の指名で何度か撮影をさせて頂いただけなのだけど、ここの大先生が和装にうるさい先生で、昨年の私の撮影した和装を見て問い合わせてごらんと勧めてくれたらしいのだ。

 

撮影の時には大先生がしっかりと私の着物の捌きを見ているのが伝わってきた。

撮影の合間で、この日記に書いたような話をさせて頂いて盛り上がった。

先生の御着付けが素晴らしく、どうか若い美容師の人達にこの伝統を絶やさずに伝え続けて欲しいとお願いをし、私も先生から色々と学ばせて頂きたいと話した。

 

これは別にヨイショしたわけでもなく本心でそう思っていたのだ。

戦争を経験された人達がどんどん居なくなってきた。

それと同じ様に写真を知っている人達もどんどんいなくなってきている。

だからこそ残さなくてはならない物がある。

 

先生からそのうち一緒に食事でもしましょうと誘って頂き嬉しく感じた。

 

そして今日、その先生から成人の御予約を頂き撮影させて頂いたのだけど、なんと先生の御孫さんだという事が直前で判明した。

 

電話口で私の可愛い孫だから、きちんとした写真を残してやりたくてね。

全てお任せしますので宜しくお願いしますよ・・・・・

 

嬉しかった。

 

今まで何十年と和装のお着付けをしてきただろう大御所の先生に全てを任せると言われた。

 

同時に今までご紹介を受けることが無かったのは私の技術の未熟さがその先生にはハッキリと見えていたからだと自分の過去の写真を振り返り反省している。

 

もちろんその時は、そのレベルで自分の写真が良いと勝手に自己評価している。

でも今見ると、こんなレベルで胸を張っていた自分を恥ずかしく思ってしまう。

少しは成長した証拠かもしれない。

 

過去に撮影をさせて頂いた皆さん ごめんなさい。

 

でも少しづつ成長してきている自分が存在しているのも間違いない事実なのだ。

 

時代錯誤だとか、時代に逆行しているとかって言われた事もあるが、周りに振り回されること無く、自分の師匠が残してくれた道を信じ、その言葉の一つ一つを自分なりに写真表現に置き換えてきたつもりだ。

 

まだまだ学ばなければならない事が沢山あるし、和装は正直苦手な分野なのだけど、もっともっと型物を楽しみながら表現していきたいと思っている。

 

そして型物の大切さを若い人達にも伝え、残していきたい。

 

KATAMONO JAPPAN

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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