奥山陽一のコラム

2012/01/11

士別の親父さん

 

私が士別に来た頃の出来事・・・

 

士別で初めて婚礼の御仕事を頂き、カメラ片手にホテルへ。

 

初めての事もあり緊張と同時に新参者故のピリピリ感。

 

全くのアウェー状態。



 

 

しかしいざ撮影に入ると全神経を集中させ、後ろにも目が着いているくらいに背後の動きまで何気に感じるようになる。

 

一瞬その空気とは違ったものを感じた。

 

集中して新郎新婦を追いかけるが、やはり時折何かが背中に突き刺さる。

 

だれだ?俺にガンつけてるのは・・・

 

撮影シーンが無い時には会場の隅の方で邪魔にならないように待機するのだけど、その時にその正体を見た。

 

 

 

士別には目立ったその筋の人間は居ないと聞いていたのにヤバイのが居るじゃねえかよ・・・

 

 

周りの来賓とは全く違うオーラを放っている。

きっと何処か地方から来ている親分さんか?

 

 

見た目もろに悪役商会・・・

 

 

鋭い目と長く伸ばしたモミアゲがトレードマーク。

一度見たら忘れられない。

 

 

何処の何物だ?

 

 

何度か目が合うが軽く会釈をして通り過ぎた。

 

それが最初の出会いだった。

 

 

その後青年会議所に入会し何度目かの春に謎のオーラを放っていた人がJCOBで歴代の理事長経験者だと知った。

士別をサフォークの街として広めるきっかけを作った張本人でもあると知った。

 

顔は知らなかったが名前だけは良く聞いていた。

 

社長の会社からもJCに入られている先輩が居て、一緒に事業をしたり飲みに行ったりする間柄になり、その先輩の雰囲気から昔の太陽にほえろに出ていた時の石原裕次郎のちょっとした雰囲気に似ている事もあり、ボスとあだ名をつけさせてもらった。

 

ボスは私の店先の前を通りながら私が店に居ると知るとUターンして顔を出してくれる。

 

ボスの話の中にも必ず社長の事が出てくる。

 

士別にはその筋の人間は居ないって聞いていたのにヤバイのがいるじゃないかと思ったと話すと大笑いしながら、うちの社長はヤクザより怖え~ぞ~!と過去の武勇伝も沢山教えてもらった。

 

 

 

更に何度目かの秋の日の事を今でも昨日の事の様に鮮明に覚えている。

 

 

ダブルのスーツにブランドものもマフラーを首から下げ、ポケットに手を突っ込み肩で風を切るようにしながら何の前触れも無くスタジオに現れた。

 

 

 

「証明写真撮ってもらえんかな」

 

 

一瞬緊張が走った。

 

 

緊張しながらも、絶対に呑まれてなるものか、撮らされてはいけないと気合を入れた。

 

 

撮影が終わった後、色々と話しかけてくれたのだけど、その時の目を良く見ていると実に静かで優しい目をしていた。

 

思わずそのままの格好で一枚写真を撮らせて頂けないかとお願いし、赤いマフラーで撮影をさせて頂いた。

 

 

 

「まさか社長さんがうちを利用して下さるなんて思ってもいませんでしたので正直ビックリしています」と言うと 「若いけどなかなかの腕前だし、JCでも頑張っていると噂を聞いたもんだから、頑張っている若い人は応援しなければと思ってね。前から気になっていたけど、この通りの顔なもんだから少しでも良い写真を写してもらいたくてね」 と笑いながら話してくれた。

 

色々と話をして下さり、この時はコーヒーを一杯だけ飲んで帰られた。

 

コーヒーが好きで超ヘビースモーカーだという事が良く解った。

帰り際に 「ここのコーヒーはなかなか美味しいね」 と言って下さったので、「もし良かったらもっとお話を聞かせて頂きたいので是非コーヒーを飲みに来て下さい」 と言って見送った。

 

 

その翌日社長が現れた。

 

 

「おう!遠慮なくコーヒーを御馳走になりにきてしまったけど忙しいかな?」

 

「とんでも無いです、今度はいつお会い出来るのかと楽しみにしていました。」

 

 

 

「わしは若い人の誘いは出来るだけ断らないようにしているもんだから、ついつい図々しく来てしまったよ。」

 

 

 

コーヒーをポットごとテーブルに置き、普段よりはるかに大きな灰皿を用意した。

 

 

 

社長は色んな話をして下さった。

サフォーク運動を起こした時のエピソードや、会社を始めた頃の話や、2億の博打をした話など、聞けば聞くほど色々と自分に置き換えてしまう。

 

後から思えば、全てが私へのメッセージだったのかもしれない。

 

3時間程話をして下さり、タバコが二箱とポットのコーヒーが無くなったと同時に帰っていった。

 

帰り際今度は社長の事務所に遊びに来るようにと言われた。

 

私は直ぐにボスに連絡を取り、その日の出来事を話すと大笑いしていた。

 

ヘビースモーカーの私も、社長の前ではタバコを一本も吸わず、ピンと背筋を伸ばしたまま直立不動で話を聞いていたのだ。

 

社長の前で堂々とタバコが吸えるくらいにならなきゃなとボスが笑っていた。

 

 

 

直ぐにアポを取ってもらい、今度は逆に翌日私が事務所にお邪魔することにした。

 

 

翌日店にある一番デカイ箱にケーキをビッシリ詰めてもらい会社にお邪魔した。

 

 

 

「良く来たね、今時珍しく面白い男だな。行動が早いというのはいつか武器になる時がくるよ」

 

 

「社長の話がもっと聞きたくなりました。全てを自分に置き換えて自問自答しております」

 

 

「君は相当ヤンチャしてきたようだね。 どこかの組で行儀を学んだ事があるんじゃないのか?

君はわしと違って顔が可愛いからその辺は得かもしれんが、中身はなかなかの筋者だなwww」

 

この日も夕方暗くなるまで色んな話を聞かせて頂き、私の話も聞いてくださった。

 

その辺の大人とは違って自論を持っていらっしゃるり、それが人間としてとても魅力的に映る。

 

言葉の一つ一つが温かく感じた。

 

帰り際、「士別に親父が出来ました。俺は社長の鉄砲玉になります」と言った。

 

肩をポンポンと優しく叩きながら 「お前はうちの奴をボスと呼んでいるそうだな、じゃあボスのボスは大ボスかい?www 鉄砲玉なんぞ言わずにわしの上を行かなきゃな」 

 

 

そう言いながら引き出しから1万円分の米券を差し出し 「ケーキのお返しに持っていきなさい。あんなに沢山買ってきたら今月の米が買えなくなるぞ。わしにも見栄を張らせろ」 と笑っていた。

 

 

それからというもの事あるごとに顔を合わせる機会も増えていった。

 

ボスからは 「うちの親父がだいぶ気に入ってるみたいだぞ。 ところでまだタバコに火を着けていないらしいじゃないか、タバコくらい堂々と吸えるようになれよな」 とよくからかわれた。

 

 

社長からは豪快な生き様をよく聞かされた。

 

経営論の話もしてくれた。

 

若い頃、会社の経営が苦しい時にお前は帰ってくるなよと先代から言われていたのに、そう言われると帰りたくなってしまい会社の現状を見て唖然としたが、強面の顔を生かして当時のヤンチャしているような連中を束ねてダムの建設現場にダンプ十台で乗り込み仕事を取ってきたそうだ。

 

会社の借金を払ってもお釣りがきたから若い連中を連れてパーッと使ったらまた一文無しになってしまったと笑い飛ばす。

 

私が旭川の店の件で落ち込んでいる時には食事に誘ってくれて、恵庭に作った会社がやばい事に巻き込まれて上手くいかなくなった時、周りにだけは迷惑を掛けないようにと2億の借金をしてケツを拭き、潔く撤退したという話をしてくれた事もある。

 

「奥山君、人は判断は出来るが決断がなかなか出来ない生き物なんだよ。戦争は世界中の誰もがやらない方が良いし、悲しい事だと判断は出来る。でも武器を捨て裸になる決断を下せる人間は少ないんだ。 決断には勇気も、責任も必要だ。 それを自分で背負うのが経営者の仕事の一つでもあるのだよ。 やられたらやり返すでは同道巡りだし、次の悲しみを生む事になる。 パクられるような事はするなよ」

 

今でもこの言葉をハッキリと覚えている。

 

その後私も直ぐに1千万の借金を残し潔く撤退を決めた。

そして必ずもう一度這い上がってやろうと決めた。 

 

社長に報告すると、「それで良い、借金で命を取られる事は無いし、返せば無くなるものだ。

次はその分全部貯金だと思えば良い。 うちの玄関の呼び鈴なんてピンポーン♪ じゃなくてビンボー

ビンボー♪って聞こえるぞwww」 と笑い飛ばしていた。

 

「社長、そのギャグ頂きます。」と言ったらオヤジギャグだから若い子の前では使うなよと笑っていた。

 

 

このブログを書きながら社長から頂いた言葉を一つ一つ思い出す。

 

この街で何処の馬の骨とも解らない俺を拾ってくれた大恩人・・・

 

 

 

 

何の御恩も返せぬまま士別の親父が突然逝ってしまった・・・・

 

 

 

訃報の知らせを受けたが、まだあまり周りには知らされていないとの事だった。

ボーっとしたまま 聞き間違いだろう。

きっと御身内の誰かが亡くなられたに違いない。

そう言い聞かせた。

 

 

昨日から札幌入りの予定だったが打ち合わせ等全てキャンセルした。

 

 

信じられずに部屋に戻ってから直ぐにボスに連絡を入れた。

声を聞いた途端涙が止まらなかった。

 

 

俺は信じないですと言うと、ボスが俺も受け入れられない、でも真実を受け入れて前を向くしかないんだよ。

 

お前札幌はどうした?オヤジが生きてたら仕事を投げて帰ってくるな!って怒られるぞ。

でもありがとうな・・・・ 明日夜が明けたらオヤジの顔を見てやってくれるか?

 

 

本当に信じられないくらい良い顔してるんだ、お前が大好きだった優しい笑顔そのままだから・・・

お前の事だから俺も一緒に着いて行ってやるから手を合わせてやってくれ。

 

 

眠れなかった。

 

テレビの音も耳に入ってこない。

 

今でも何故か解らないけど、夜中に冷蔵庫を漁り出してスープカレーを作り出した。

 

ボーっとしたまま鶏肉を茹でていたらしく、時計を見ると1時間以上経過していた。

我に返り味付けを始めた。

 

出来上がったけど食べる気にはなれなかった。

 

 

今朝起きると唇が痛い。

 

味見をし過ぎたのか火傷をしているようだ。

 

その後ボスから電話が入り、会社に呼ばれた。

 

 

無言のまま裏にある社長の自宅に向った。

 

 

会いたくないです・・・

 

 

お前を可愛がってくれた人だ、ちゃんと会ってやらないと怒って出てくるぞ。

 

 

出てきてほしい・・・

 

 

年前にお会いした時にはにこやかに来年年が明けたら事務所に遊びに来いと言ってくれたばかりだったのに・・・・・

 

 

 

 

恐る恐る顔を拝見させて頂いた。

 

こんなに安らかな顔は今まで見た事がないくらい本当に良い顔だった。

 

優しく微笑んでいるようにしか見えなかった。

 

 

 

こうやってブログを書いていてもまだまだ書ききれない。

俺はウダウダと未練たらしい男かもしれない。

 

 

社長から学ばせて頂いた事は沢山ある。

でももっともっと学ばせて頂きたかった。

 

世の中には大きな企業の社長さんは大勢居る。

でもその姿を見ているだけで何かを感じ、学ばせて頂ける人間臭い人は今の時代にそう滅多に出会えるものでは無い。

 

飾りの付いた社長の椅子なんぞまっぴらごめんだ。

 

 

 

士別の裏のドン。

 

今まで社長が睨みを利かせていたから保たれていたものもこの街には沢山あるのだと感じている。

 

土建関係の事は知らないが、この街の政治は間違いなく動き出すだろう。

 

 

でも今はそんなくだらない事はどうでも良い。

 

 

 

士別の親父さんの御冥福を今はただただ祈りたい。

 

 

                     合 掌

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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