奥山陽一のコラム

2011/07/23

陸前高田市から

 

昨日の朝、店長が私に一言。

 

爽やかな笑顔の好青年がやってきました!

安心して普通に会話が出来ます!

 

何をすっとぼけてんだ??



 

 

先日からブログにも書いてあるように昨日の朝、陸前高田市から写真を学びたいというI君が来てくれた。

 

店長が言うように礼儀正しくハキハキとしているが、その目の奥は店長の見る印象とはちょっと違って感じた。

 

言葉はいらない。

 

笑顔の裏で深い悲しみの中でもがき苦しんでいるのが伝わってくる。

 

陸前高田市は人口も面積も士別と殆ど同じくらいの小さな街なのだけど、その街がまるまんま消えてしまったといっても大袈裟ではない。

ほぼ壊滅状態にあるのだ。

 

I君の話を色々と聞かせてもらった。

 

本当に人懐っこくて悲しみの中でも一生懸命私達に気を使って笑顔を作ろうとしてくれているのが痛いほど伝わってくる。

 

地元の消防団に所属し、震災翌日から街の為に御尽力されてきようで、数え切れない程の御遺体を捜しては安置所に運んだそうだ。

 

まだ27歳の彼がどんな思いで今日までを過してきたのだろう・・・・・

 

 

客扱いはやめた。

 

 

写真を学びたいという彼の真剣な姿に、私も遠慮無しにぶつかり、そして受け止める事にした。

 

まもなく一件目の撮影が始まった。

 

遠慮なく近くで見るように伝え、撮影に入る。

 

撮影の合間に彼に目をやると、遠巻きに見ている。

 

 

撮影を終え、スタジオの仕組み等の話をすると食いつきが良い。

 

 

続いて次のお客様がいらっしゃった。

 

やはり遠巻きに見ている。

 

撮影が終わり、午後の撮影に備えて昼食を摂りながら、せっかくのチャンスなんだからもっと前に出てくるように言うが、やはり遠慮している様子。

 

午後からは婚礼の撮影が入っているので和装の大切さや型物の話をした。

 

 

撮影開始。

 

和装の捌きを近くで見るように伝え、ポーズを着けていく。

さっきよりは少し近付いているが、もっと近くに来るように命じた。

 

無事和装、洋装の全ての撮影を終えた。

この日のお客様は遠路遥々稚内からお越し頂いていて、写真集での御注文だったので撮影量も多く様々なバリエーションで写させて頂いた。

 

彼にも良い刺激になったようだ。

 

その後皆で居酒屋で夕食。

 

暗い話題を避けるように、東北弁と北海道弁の話題を振ると私達の知らない言葉がポンポン飛び出し、終始爆笑だった。

 

特に、めぐさめんこい という言葉を教えてもらい、居酒屋のスタッフに使うと、なんですか?

めんこいだから良い意味のようだけど、奥山さんに言われると絶対に違うと思いますと完全に疑られていた。

 

まあここでも内緒にしておく事にしよう。

 

 

時折互いの師匠の話となるが、私が彼に話す言葉と、彼の先生が生前話してくれていた言葉がまるで同じでビックリしていますと言っていた。

 

どんな分野の写真であっても上に突き進んでいけば心根は同じなのだと伝えた。

 

 

その後二人でスタジオに戻り、作品の話で盛り上がった。

 

久々に作品の話が出来て私も楽しい時間を過す事ができた。

 

よし!特別に静岡の先生の作品を見せてやろう。

 

白い手袋をシャキーンとはめて、倉庫にしまってある作品をスタジオに広げた。

 

この白い手袋を履く事も大切な事なのだ。

 

 

この日一番の目の輝きだった。

 

 

静岡の先生の話をしながら作品を一枚一枚見せた。

 

撮影されてきた順に初期の頃から今に至るまでの流れが見て直ぐに理解できているようだった。

 

 

時計を見ると3時近くになっていた。

 

ビックリしてお開きとした。

 

 

寝る前に一言だけ伝えた。

 

「本音で言っても良いか? 今日の撮影の時のように遠巻きで見ていてはダメだ。

それから君の笑顔は必死に作ろうとしている笑顔だと思うんだ。

明日はうちのスタッフとして掃除から参加し、きちんと笑顔でいらっしゃいませと出迎えるところから始めてみないか?

辛い話かもしれないが、お客様にとっては君が今どんな辛い思いをしているのかは解らないのが現実であり、本当に写真屋をやるのであれば、どんな状況であれ笑顔で接客をしなければならないし、その切り替えが出来るのがプロの仕事だと思うんだ。

そして何より今の君はそこに挑んでいかなければならないんじゃないかなって思うんだ。

チャンスは平等に与えられるけど、そのチャンスを物に出来るかどうかが一番大切だと思うよ。

その東北弁も武器になるかもしれないぞwww」

 

 

「やっぱりお見通しなんですね・・・・

チャンスを頂けるならやってみます。 いや やらせてください!

この東北弁も武器にして飾らずにやってみます。」

 

「俺がしてやれる事はたいしたもんじゃないけど、先ずは悩むな!悩むと動けなくなる。

でも考える事は良いぞ。考えながら動けるようになれば良い。

そこから一つづつコツコツと乗り越えていこうや!」

 

 

夜が開けた。

 

 

今日はもう一人見学に来る女の子がいる。

 

七五三の着付とヘアメークを手伝わせる予定でいたが、直ぐに子供達と溶け込んでいた。

彼の様子を知らん顔で遠巻きに見ていると、笑顔で着付を待つ他の子達と会話しているではないか。

 

お客様にはこっそりと彼の事を話し、スタッフとして入る事を了解して頂いた。

 

どうりで言葉がなまっていると思っていましたと笑って受け入れてくれた。

 

面白い事に、子供達が彼の東北弁にやたらと感心を持ってくれているようで、彼の言葉に笑い転げながら言葉を真似しようとしている。

 

 

私の場合、子供にあまり馴れさせてしまわぬように距離感を大切にしている。

これだけ笑い転がられては・・・・・フ~~

 

何とか緊張感を取り戻すように誘導しながら撮影を終えた。

 

 

お客様を見送った後に彼が一言・・・

 

 

「先生の撮影は、子供と距離感とか間合いみたいなものを大切にしてるんですね」

 

 

「ん?それが解るのか?」

 

「いや何となくそんな感じがしました」

 

「子供は馴れすぎても良い表情が写せないんだ。ふざけすぎると親が撮るスナップと変わらなくなるし、写真屋で写真を撮りたいと思って下さる事の意味合いが違ってしまってはいけないと思うんだ。

だから撮影前はある程度距離感をおくし、緊張もし過ぎず、緩め過ぎもせずって感じかな」

 

それにしてもそういう細かな部分を感じている事に私の方がビックリした。

こいつは化けるかもしれない・・・・

 

次の撮影の時にはちゃんと距離を撮っていて、撮影の時には私の真後ろに居た。

空気を読むというのか、彼の感覚なのだろうか、なかなか今までに居なかったタイプかもしれない。

 

 

いや、でもこれが普通なのかもしれない。

 

 

その後全ての撮影を終え、最後に特別にスタジオの其々のライティングを見せながら撮影をし、画像処理で現像をするところまでを見せてあげた。

 

今回は二種類のライティングを見せ、一つは教科書通りのネガの時代からのライティング、もう一つは今私が少しづつ作っているデジタル用のライティング。

 

更に機械任せのプリントと、一枚づつ私が手を加えたプリントの違いを見せた。

 

その違いは誰が見ても一目瞭然。

 

今の世の中の写真屋の大半がこの状態である事を説明し、あとは自分がどちらの道を学んでいきたいかは自分で決めろと伝えた。

 

もちろん答えなど聞かなくても解っている。

 

自分のやってきた写真が何だったのかと思ってガックリきたと言っていた。

 

私のスケジュールの都合で8月4日までは留守にするのだけど、それが過ぎたらまた来ても良いかと言うのでいつでも来るように伝え2日間の見学会を終えた。

 

最後まで、おもしれえ、帰りたくねぐなった~~と連呼していたがこればっかりはしょうがない。

 

次に来た時には、被災地で役立つように写真の修整を見せてあげようかと考えている。

 

 

久々に写真の世界で良い子に出会えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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